植物の病気 稲編 ~イネもち病~

イネもち病とは?

その名の通りイネに感染する病気です。「ごま葉枯れ病」・「紋枯れ病」と並ぶイネの三大病害の一つとして数えられています。欧米では、「イネの胴枯れ病(英名:Blast of rice)」、「イネの疫病(英名:Rice blight)」などと呼ばれています。古くから稲に発生する定型的な病気であり、最も恐れられてきました。いもちが広範囲に発生した圃場では十分な登熟が期待出来なくなり、大幅な減収と食味の低下を招く恐れがあります。文書に初めて登場するのは1637年の明における記録で、その後は日本(1704年)、イタリア(1828年)でも記録されています。

イネいもち病菌 分生子

発生要因

いもち病はイネがカビの一種であるイネいもち病菌(学名:Pyricularia oryzae)に感染し発病することで起きます。感染のメカニズムは、病原菌の分生子が葉に接触すると刺激で粘着質が分泌されて葉に付着します。分生子が湿度で発芽することによって付着器が形成され、そこから菌糸が葉のクチクラ層を突き破って植物の内部に侵入します。そしてそれとほぼ同時に細胞内部にメラニンと呼ばれる物質が生成され、菌の細胞壁の強度を高めます。このため、現在いもち病に用いられている殺菌剤はメラニン生成を阻害することで防除するものが多いです。


いもち病菌は胞子によって空気伝染します。空中を飛散した胞子が別のイネに付着して、そこに水滴があると繁殖します(上記で述べたようなメカニズムで繁殖する)。伝染するのは、気温が約16~30℃、イネに水滴が8時間以上付着しているような条件が多いです。天気が良いとイネは乾くため、雨が降り続くような時期に感染しやすくなります。特に梅雨の時期は発生しやすいので注意が必要です。

防除方法

いもち病の防除方法として一般的に以下の方法が用いられています。

 ・農薬(殺菌剤)の使用

 ・無病種子の使用

 ・病気に強い抵抗性品種の使用

この内、殺菌剤の使用が主流ですが、この方法で注意する点は「薬剤耐性菌の発生」です。人間に感染するウイルスと同様、植物に感染する菌でも薬剤が効かない種類の菌(薬剤耐性菌)が存在します。近年では広く用いられている殺菌剤に対して抵抗性を持つ耐性菌が相次いで発見されていて問題となっています。例として、2001年に初めて佐賀県で、防除用薬剤(MBI-D剤)に対する耐性菌の出現、2013年には大分県でストロビルリン系剤に対する耐性菌の出現が報告されています。こういった耐性菌の出現は同じ農薬を何年も使用することで、起こりやすくなります。そのためイネいもち病に効く複数の農薬を年毎に使い分けて使用することが重要です。